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佐藤友哉『放課後にはうってつけの殺人』感想|平凡な日常の裏側に潜む狂気

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「平凡な日常」のありがたさを知る!

昭和の終わり、地方都市のごくありふれた家庭、普通の中学生。
そのどこにでもありそうな風景の裏側で、静かに狂気が進行していく── そんな不穏さを孕んだ物語が、『放課後にはうってつけの殺人』です。

青春ミステリーの装いで始まりながら、読み進めるほどに削られていく 「家族」「日常」「善悪」といった当たり前の感覚。
軽やかに読めてしまう文章とは裏腹に、心には確実に傷を残していく一冊でした。

 

 


放課後にはうってつけの殺人 (ホーム社)

 

 



『放課後にはうってつけの殺人』作品情報

 

あらすじ

1988年北海道千歳市。クリスマスイブの夜、13歳の浅葉悟は、父の机から「血のついたコート」を発見する。

テレビは白いワゴン車が絡む女児殺害事件を報じ、警察は町を巡回していた。

父の乗る車もまた白いワゴン車だったのだ。平穏な日常を守るために、悟は少し離れた林に行き、「血のついたコート」を焼くのだが、その一部始終をクラスメイトの見船美和に見られてしまう。

見船は悟に「私といっしょに、犯人をさがしませんか?」と意外な提案を持ちかけるのだった。

事件を追う中学生男女の孤独を描いた青春ミステリーの傑作。

集英社公式サイトより引用

 

 

  • 作品名:放課後にはうってつけの殺人
  • 著者:佐藤友哉
  • 出版社:集英社
  • 発売日:2025年11月26
  • ページ数:272ページ(単行本)
  • ジャンル:ミステリー






『放課後にはうってつけの殺人』感想

 

「普通の家庭」に漂う違和感

 

昭和の終わり、クリスマス・イブ。

 

クリスマスツリーを飾り、家族でクリスマスケーキを食べ、翌朝には枕元にプレゼントが置いてある。

悟が父の机から「血のついたコート」を見つけてしまうまでは、一見するとどこにでもありそうな穏やかな家庭の風景に見えます。

 

会話は少なめで、父親は家族にあまり関心がなさそう。

それも「昭和の無口な父親ならこんなものか」と、読み始めの段階では深く気にせず読み進めていました。

しかし物語が進むにつれて、そのささやかな違和感が、じわじわと効いてきます。

 

悟が家族に無関心に見えるのも、彼自身の性格というより、そういう距離感の家庭で育ってきた結果なのだと思います。

子どもは自分の家庭しか知らず、「これが普通」だと思って育ちます。

悟にとっての“家族”は、あの距離感が標準だったのでしょう。

 

中学生という年齢もあり、他人の家庭を深く知る機会は少ない。

その若さゆえの視野の狭さと、「普通だと思っていた日常」が崩れていく感覚が、読後に独特の息苦しさを与えています。

 

 

テンポの良さと後味の悪さ

 

正直に言うと、もっとポップで軽快な青春ミステリーを想像していました。

ところが実際に描かれているのは、かなり重く、救いの少ない事件ばかりです。

 

それでも文章は平易でテンポがよく、するすると読み進められてしまいます。

その「読みやすさ」と、次々に明かされていくあまりにも残酷な真実との落差が、強烈なチグハグ感を生んでいます。

気づけば一気読みしてしまうのに、読後にはしっかりと胸糞の悪さが残る。

このギャップこそが、本作の一番の怖さなのかもしれません。

 

惨劇は特別な悪人によって起こされるのではなく、思い込みや歪んだ正義、どうしようもない感情の積み重ねによって引き起こされます。

そんなことで人を殺す?と思うような事件は現実にありふれていて、その現実味を感じさせる本作の歪みと狂っていった結果が、後味の悪さをより濃くしています。

 

 

見船美和という存在と、壊れきった倫理(ネタバレあり)

 

この物語で最も異様で、同時に最も印象に残る存在が見船美和です。

彼女は明確な「悪役」ではありません。

むしろ彼女自身もまた、長年暴力と不幸の中で壊れてしまった被害者の一人です。

 

妹を失い、家庭は崩壊し、父親はアルコール依存症で暴力的。

そんな環境で育った彼女が、「普通の日常」を手に入れるために選んだ方法は、あまりにも歪んでいました。

復讐ではなく、平穏に生きるための計画。

そのための発想がすでに狂気なのに、彼女の論理はどこか筋が通って見えてしまうのが恐ろしいところです。

 

一方で、美和が悟に向ける「あなたもまともな家族をやっていない」という言葉には、強い違和感を覚えました。

悟は加害者ではなく、明らかに被害者です。

そういう家庭で育つしかなかった子どもに、責任を負わせるのはあまりにも残酷です。

 

倫理観が完全に崩壊した大人たちの世界で、子どもたちは翻弄され、壊れていく。

誰もがどこかおかしく、誰もが被害者で、誰もが加害者になり得るのかもしれないとやりきれない思いが残ります。




まとめ

 

『放課後にはうってつけの殺人』は、ミステリーとしての仕掛け以上に、「壊れていく過程」を描いた物語だったように思います。

 

誰かが最初から怪物だったわけではなく、

思い込みや恐怖、歪んだ正義が積み重なった結果、取り返しのつかない場所まで転がり落ちてしまった人々の物語。

その中で子どもたちは守られる存在ではなく、ただ巻き込まれていくだけでした。

 

読みやすさと残酷さの落差、理解はできないけれどあり得そうと思えてしまう否定しきれない狂気。

後味は決して良くありませんが、強く心に残る作品です。

 

軽い気持ちで読むと、思った以上に深く抉られる一冊でした。